ジャパンフードアライアンス(JFAL)が始動:日本の食文化の新たな可能性をひらく、“実装型プラットフォーム”を目指す
ジャパンフードアライアンス(JFAL)理事長に就任した北川浩伸氏。
日本の外食産業のアジア市場開拓をサポートしてきた一般財団法人アジアフードビジネス協会が、2026年6月、一般財団法人ジャパンフードアライアンス(JFAL)として新たに生まれ変わった。
世界から熱い注目を集める日本の食を、アジアだけでなく世界中に届けるべく、さまざまなプレーヤーをつなげながら新たな価値を生み出すことが、最大のミッションとなる。
そのねらいや具体的な取り組みについて、JFAL理事長に就任した北川浩伸氏に訊いた。また、新団体発足発表と併せて開催された特別講演の模様もレポートする。
JFAL理事長・北川浩伸氏インタビュー「日本の食の多様なプレーヤーをつなぎ、世界共通の価値へと高める」
2026年6月に開かれたJFAL発足記念講演での北川氏。
2012年から活動を行ってきたアジアフードビジネス協会が、新たにジャパンフードアライアンス(JFAL)として始動した。これまでJETRO(日本貿易振興機構)理事など日本と海外の架け橋となる事業に長く携わり、今回JFALの理事長に就任した北川浩伸氏は、その経緯をこう説明する。
「これまでアジアフードビジネス協会は、日本の外食産業のアジア市場開拓を目的として国際進出の支援などの活動を行ってきました。しかし、14年の時を経て、外食産業のニーズがアジアを超えてアメリカ、中東、アフリカ、ヨーロッパなど世界全体へと広がっていることを実感しました。JFALは、こうしたニーズに応えるべく、全世界をフィールドに日本の食文化の発展に向けた新たなプラットフォームを目指しています」
新団体は、海外展開(アウトバウンド)と訪日客へのプロモーション(インバウンド)の取り組みを、両輪で進めるのも大きなポイントだ。
「訪日外国人の大きな目的のひとつは何といっても食であり、これが日本の競争力の源泉であることは間違いありません。今後は、消費者の成熟度に応じた、マーケティングの“精度”向上がより一層求められるでしょう。つまり、日本のことをまだよく知らないビギナーから、何度も来日している上級者まで、ペルソナ(顧客像)に応じて細分化したアプローチが必要です。インバウンド需要の拡大によって国内事業者のビジネスが活性化し、海外展開への新たな動機づけとなる好循環を生み出すこと。これがJFALの大きなミッションでもあるのです」
そのためには、外食事業者のみならず、食の生産者、食品加工業者、技術・機械メーカー、IT、金融、さらには伝統工芸やコンテンツ・エンターテインメントまで、多様なプレーヤーの参画が必要になるという。
「これまで個別に事業展開をしていたため関わりの少なかった業種業態をつなげることで、日本の食の価値を最大化するのがねらいです。たとえば、いま農業ではデジタル技術やAIを活用した田畑の耕作が行われ、支払いには暗号資産など新しい金融決済手段が導入され始めているため、こうした領域とも連携する必要性があります。外食産業にとって暗号資産による決済の簡便化と手数料削減はメリットが大きく、外国人労働者が多い生産現場では、為替差損なく本国への送金が可能になるなど、BtoBとBtoCの両面で活用できる可能性があります」
「また、コンテンツ・エンターテインメントの分野は、前職で日本のアニメと食を組み合わせたインバウンドを対象としたテストマーケティングに手応えを感じたこともあり、今後もこの分野と積極的につながっていければと考えているところです 」
JFALは、日本の食に関わる多種多様な業種が垣根を超えて集結する場になりそうだが、北川氏は「単なる異業種の交流団体ではない」と強調する。
「私たちが目指すのは“実装型プラットフォーム”の構築です。偶然性に依拠した出会いに留まる交流会ではなく、システム化された仕組みを通じて稼ぐ力を高める…つまり、きちんと儲けを出しながら、お互いに協力して新たなビジネスチャンスを生み出す“共創(コクリエーション)”を実現したい。JFALを日本の食文化の国際化を支える基盤にしたいと考えています」
北川浩伸/一般財団法人ジャパンフードアライアンス(JFAL)理事長。1989年、日本貿易振興会(現・JETRO:日本貿易振興機構)に入会。ロンドンセンター、ハノイ事務所長などで日本のサービス産業や食文化のグローバル展開を支援。JETRO理事、JFOODO執行役を経て現職。
特別講演レポート:ステーブルコイン時代の「シン・フードビジネス戦略」
価格の安定性が確保された暗号資産として注目される「ステープルコイン」は外食業界にどのようなインパクトをもたらすのか。日本の外食チェーンとして初の導入に踏み切った千房株式会社とWeb3の分野を牽引する株式会社HashPortによる特別講演、および北川理事長を交えたクロストークが行われた。
中井貫二/千房株式株式会社代表取締役社長。野村證券にて14年にわたり超富裕層向けプライベートバンキング業務に従事。2014年、長兄の他界を機に父が創業した千房に入社。2018年、代表取締役社長に就任。
現在、全国70店舗、海外11店舗を展開するお好み焼き・鉄板焼きレストランチェーンの千房。 お好み焼き店として初の百貨店やホテルへの出店など、数々の業界初の取り組みを実施している。2026年4月にはステーブルコインを導入し、現在、国内2店舗で運用。代表取締役社長の中井貫二氏は、「導入効果として、会計処理の負担が少なく、オペレーションが簡便でミスはほぼゼロ、新たな顧客層の開拓やSNSでの反響などのメリットがあった。顧客側のメリットとしては、誰でも簡単に利用できる点にある。たとえばPayPayは前払い式支払い手段でアプリ内限定だが、ステーブルコインは法律上“電子決済手段”のため、ホームページのようにネットワークに接続できる人なら誰でも利用可能だ。
現在、外食業界では、人手不足や原材料費・人件費の上昇による利益圧迫、インバウンドの増加に伴うキャッシュレス需要の拡大などが課題だが、その解決にステーブルコインが寄与するのではないか。今後、大手金融機関の参入により利用者は爆発的に伸びる可能性がある」と語った。
吉田世博/株式会社HashPort代表取締役CEO。2018年に株式会社HashPortを創業。大阪関西万博へのEXPO2025デジタルウォレットの提供をはじめ、多くの企業。金融機関、政府機関などにノンカストディアルウォレット(自己管理型ウォレット)のソリューションを提供している。
大阪関西万博の公式ウォレットとして採用されたEXPO2025デジタルウォレットが、HashPort Walletとしてリニューアルされた。
ブロックチェーン技術の社会実装を目指して2018年に創業したHashPort代表取締役CEOの吉田世博氏は、ステーブルコインが日本の食産業を変える可能性について言及した。「私たちが開発したステーブルコインに対応したアプリHashPort Walletのユーザー数は現在約120万人。最大の特徴は“手数料のない世界”の実現だ。従来のクレジットカードなどによる決済では、カード会社1社がインフラを担うため3~5%の手数料を店/企業側が負担していたが、ステーブルコインでは複数の事業者によって運営が分業されるため競争によってコスト削減が実現できる。現在、急成長するAIエージェントでは、顧客にとって良いサービスを行う飲食店が優先的にレコメンドされ、AIエージェントに選ばれない飲食店は淘汰されるリスクがある。今後は、AIエージェントが自律的にステーブルコインで決済を行えるような、“エージェントコマース(自律的なAIエージェントが人間に代わり、商品の探索・比較・購買実行までを担う商取引)”が進んでいく可能性も高い。そんな時代を見据えて、“最もAIエージェントに選ばれるレストランの多い国・日本”を目指したい」
北川氏、吉田氏、中井氏によるクロストークでは、新たな決済システムの導入が飲食業界にどのようなインパクトをもたらすのかが語られた。
クロストークでは、「ステーブルコインなどの新たな決済システムの導入でクレジットカードや海外送金の手数料が大幅に削減できるのは事業者にとって大きなメリット」「今後はAIエージェントによる予約システムとの連携などによって新たな価値の提案も生まれるだろう」など、フードビジネスの新たな潮流の可能性が語られた。
Photos/ Masatoshi Sakamoto Text/ Shin Sakurai