GO WILD TOKYO 3/檜原村の自然の中でリトリート体験
今回のアドベンチャーツーリズムは、前回に続き、東京の西に位置する檜原村にフォーカスする。檜原村は、山梨県や神奈川県と接し、豊かな山の資源の交易ルートとして、古くから拓けてきた静かな山里だ。
檜原村の魅力が、ぎゅっと凝縮されたスポットとして注目したいのが、「たなごころVillage(ビレッジ)」。有機米酵母のパンが焼かれ、渓谷に面したサウナやバーベキュー付きのコテージが利用できる。村の自然をたっぷり味わいつつ、ほっこりリラックスすることもできる、“檜原村の体験型テーマパーク”とも言える施設だ。
今回、オーストラリア出身のYouTuber、カレントリー・ハンナさんが、リトリート(日常からしばし離れ、心身をリフレッシュする旅)をテーマとした、アドベンチャー・ツーリズムを体験するため、この「たなごころVillage」を訪問した。
檜原村で、東京の山里の自然と暮らしを体感
ハンナさんは大阪から東京へ引っ越して来たばかり。檜原村も初訪問だったため、「ここは、本当に東京?」と驚く。「東京は都市だけではなく、山も島もあるとても広いエリアなんですね! 私の故郷のオーストラリアは、ダイナミックな自然景観は多く見られますが、こうした人の暮らしのそばにある清流の風景は、新鮮に感じます」
そんなハンナさんの本日の目的は、2024年からスタートした「リトリート体験イベント:ヴィーガンランチ付き ヨガとサウナと自然体験」。自家製野菜をふんだんに使ったヴィーガンランチに始まり、檜原村の急峻な畑での農業体験、せせらぎを聴きながらのヨガ体験に加え、最後は渓谷沿いのサウナに入れるという贅沢なパッケージだ。
秋川の清流に臨むテラス席でヴィーガンランチをいただくところから、リトリート体験ツアーはスタートする。
大学ではダンスを学び、パフォーマーとして活動もしていたハンナさんは、ベジタリアン。健康や環境への意識が高い海外の大都市では、ファストフード店でも対応メニューがあるほどだが、大阪や東京でベジタリアンのメニューを探すのは、まだまだ難しいとハンナさんは話す。ベジタリアンメニューの中でも、「たなごころVillage」が提供するのは、動物性の食材を一切使用しないヴィーガンメニュー。使用する野菜のほとんどが檜原村産でまかなわれており、ヴィーガン食初体験でも、美味しくいただける工夫もされている。
この日のランチは、豆乳マヨネーズのカボチャのサラダ、豆乳ホワイトソースのグラタン、レタスと近所で採れたトマトのサラダ、素揚げナスの擦りおろしタマネギポン酢浸し、ズッキーニとヘチマの自家製塩麴炒め、有機米酵母のたなごころパン、夏野菜のラタトゥーユ。中央はニンジンのエビフライ風と、くるま麩のフライ。そして、デザートにミョウガのシャーベット(写真参照。上から時計まわりに)。
「野菜の種類がたくさんで、どれもフレッシュで歯ごたえがありますね。野菜だけでなく、お麩でタンパク質がしっかり摂れるのも嬉しいです。エビフライに見立てたニンジンなど、遊び心があるのも楽しい」(ハンナさん)
農業体験とヨガで、五感を研ぎ澄ます。
ヴィーガンランチを堪能した後は農業体験へ。山里である檜原村では、平坦な土地が限られているため、農業は日当たりのよい傾斜地で営まれる。一般的な観光農園では体験できない、こうした山里ならではの暮らしや文化に触れられるのもリトリート体験の特徴である。
農業体験は、季節によって収穫できる作物が変わる。ハンナさんが訪れた時期の旬は、ブルーベリー。ブルーベリーは日本で栽培種として流通しているものだけでも100種類以上あると言われているが、「たなごころVillage」のパン工房でも使われるため、ここでは10種類以上もが植えられている。熟し具合を味見しつつ、好みの味を探すのも楽しい。
「今までイチゴを摘んだことはありましたが、ブルーベリー収穫は初めて。酸味のある品種もありましたが、私の好みは甘くて大粒のブルーベリー。そのまま食べても、ヨーグルトにそえても美味しいですよね」(ハンナさん)
ブルーベリーの周辺の畑でも、季節に応じてシイタケやジャガイモ収穫などが体験できる。ヴィーガンランチで使われた季節の野菜の多くも、この畑で育てられたという。檜原村の大地の恵みと人々の暮らしを、まさに五感で感じられるのだ。
農業体験で気持ちの良い汗をかいた後は、ヨガ体験で心身をリフレッシュできる。
レッスンを担当するのは、ヨガインストラクターのmamikoさん。実は彼女がここのスタッフだった頃、周囲の素晴らしい自然に感銘を受け、休憩時間を使って緑に囲まれながらのヨガを楽しんでいたそう。その姿が社長の目にとまり、今回のプログラムに取り入れるキッカケになったのだとか。
「春や秋は渓谷にすぐに下りられるウッドデッキでヨガを行います。ヨガでは、五感をとても大切にします。自然の香りや緑を楽しみ、渓流の音や鳥のさえずりを聴き、空気を味わい、風に触れる贅沢な時間を過ごせます。この檜原という場所は、人間が、生き物としての原点に還れる場所だと思います」(mamikoさん)
身体も心も整う、絶景サウナ体験
最後に待っているのが、バレルサウナ体験。バレルサウナとは、北欧生まれの樽型のサウナのこと。屋外に設置することができ、円形のため、室内が効率よく温められるなどのメリットがある。2024年に完成したばかりだ。サウナを温める薪も、もちろん檜原村産の間伐材。地元の自然の「恵み」を体感できる施設となる。
「バレルサウナは、新しくて、とても清潔でした。ロウリュ(サウナストーンにアロマ水をかけたときに発生する蒸気)のアロマの香りと、渓谷の瀬音に包まれる感覚を楽しめました。窓から見える自然との一体感は、他では味わえないと思います」(ハンナさん)
そんなハンナさんが特に気に入ったのは、水風呂ならぬ“沢風呂”。この施設の最大の特徴は、目の前に溪谷があること。サウナで火照った体を、水温20度以下の清流に浸って整えるのが、訪れる人々にも大人気だという。
「すぐに沢に入れるのは、とても魅力的です。冷たい沢に入った途端、水に包まれる感覚に圧倒されます! 沢から上がると、身体も心もリフレッシュできます」(ハンナさん)
都会の喧騒から逃れ、檜原村へ“ラブリーエスケープ”
「今日のリトリート体験は、いろいろなメニューが用意されていました。私のように自然の中でアクティブに過ごすことが好きな人なら、きっと満足できると思います。都会の喧騒から少し離れたい、“ラブリーエスケープ(ステキな逃避行)”にピッタリの場所ですね」(ハンナさん)
改めて「たなごころVillage」が提供するリトリート体験を振り返ると、共通するのは、自然との近さだ。山々に囲まれたテラス席でのヴィーガンランチも、山里の季節を感じる農業体験も、せせらぎに癒されるヨガやバレルサウナも、みな自然からの恵みで成り立っている。
「たなごころVillage」を運営するのは、地域の燃料店として“心豊かな暮らしをおくること”を大切にする井上店。檜原村の暮らしに根差してきた地元企業である。リトリートの流行を取り入れつつも、檜原村を知ってもらい、好きになってほしいというホスピタリティの高さは、実は山里の人々のおもてなしの心そのものなのだ。
「普段からお越しいただいているお客様はさまざまです。パン工房へは地元や多摩地区の女性が多く、コテージでの宿泊は川遊びやバーベキューを楽しみたい30代のファミリー層が中心です。サウナは20代の方々も都心からたくさんいらっしゃいます。皆さん、自然環境を“貸し切り”で楽しめるような、プライベートな空間を味わえることに魅力を感じていただいているようです」
と語るのは、今回のハンナさんの体験をサポートしてくれた「たなごころVillage」の広報担当・鈴木彩瑛さん。
「今回、ご案内したリトリート体験は、月1回のペースで続けていきたいと考えています。自然の中でアクティビティを楽しみ、自分を解放することも、私たちはアドベンチャーツーリズムだと捉えています。日頃、都会の生活にストレスを感じていて、“自然の中で、この体験を一度してみたかった”という方なら、年齢を問わず大歓迎です。“また来るよ”と言っていただけるよう新しい提案を、スタッフ一同で考え、ご用意しておきます!」(鈴木さん)
たなごころvillage
住所:東京都西多摩郡檜原村人里2100-1 【地図】
☏042-598-6307 営業時間10:00~18:00(宿泊を除く)
リトリート体験(モニター価格): 8,800円(税込)。内容によっては変動する可能性あり。
Webサイト:https://www.tanagokoro-village.com/
クルマ:圏央道「あきる野IC」または「日の出」より約30㎞
電車とバス:JR五日市線「武蔵五日市」より西東京バス「数馬」行きにて「笛吹入口」下車
【アドベンチャーツーリスト】
Currently Hannah(カレントリー・ハンナ)
オーストラリア東部ブリスベン出身のYouTuber。パフォーミングアーツを大学で学び、ダンスパフォーマーとして関西のテーマパークで働くために来日。すぐに日本の自然に魅了され、YouTuberへ転身。トラベルebookの刊行を含め、日本の自然やカルチャーに触れるコンテンツを発信している。
※本内容は、「(公財)東京観光財団 アドベンチャーツーリズム推進事業助成金」を活用して実施しています。
文/大田原 透 写真/石原敦志