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GO WILD TOKYO 2/ 清流と森の恵みを体感する檜原村ツアー

GO WILD TOKYO 2/ 清流と森の恵みを体感する檜原村ツアー

東京といえば高層ビルやにぎやかな街並みを思い浮かべるかもしれませんが、実は大自然も存在するのをご存知でしょうか。都心から少し足をのばした多摩・島しょ地域には驚くような自然が広がり、都会の喧騒を離れ、リフレッシュできる絶好の場所が東京にもあるのです。最近旅行者に人気のアドベンチャーツーリズムは、「自然」「アクティビティ」「文化体験」の3要素のうち2つ以上で構成される旅行のこと。日常を離れ、新たな発見をする旅へ出かけてみませんか? GO WILD TOKYO!

By AAJ Editorial Team

今回は東京都の多摩地域における唯一の村、檜原村を紹介。新宿の副都心から2時間ほどの距離ながら村の9割を森林が占める自然豊かな場所であり、トレッキング、沢登り、薪割り、旬の食材を使った食体験などさまざまなアクティビティが楽しめる。今回アドベンチャーツーリズムを体験するため訪れたのは“未来のための森づくり”をテーマに、地域住民と自然をつなぐ場である「NPO法人 フジの森」。2つの村有林(「教育の森」と「ふるさとの森」)の運営も担っており、これらの森を活用した環境教育・環境保全・エコツーリズム等の事業を行っている。

源流の清らかな水に触れ合う、沢登り

ツアーガイドの甚川さんから自然と歴史にまつわる豆知識を聞きながら、南秋川の支流である矢沢の川を歩く。清流の冷たさが足首を伝い、全身が目覚める。

源流の清らかな水に触れ合う、沢登り

多摩川の支流の中で最大と言われる秋川(あきがわ)の源流が流れることから、「秋川源流の里」と呼ばれる檜原村。沢には大小合わせて50を超える滝がかかり、自然が生み出した神秘的な風景と透き通る水の美しさが訪れる人々をもてなしてくれる。今回のアドベンチャーツーリズム最初のアクティビティが、この清らかな川をフィールドとする沢登りだ。南秋川支流の矢沢にかかる「くらかけの滝」を目指して歩くコースは、初級編ということもあり川の斜面は緩やかで、水量も足首が浸る程度。山から湧いたばかりの“できたての水”はキンと冷たく、木陰の風は爽やかで心地よい。まさに夏にぴったりの体験だ。

「秋川渓谷は戦国時代、甲斐国・相模国・武蔵国の境に位置し、このあたりを治めていた北条氏に仕える忍者の謀報、調略の拠点でした。そんなリアルな忍びの場だと思うと、見え方も変わってきませんか?」

そう話すのは、ツアーの案内人である甚川浩志(じんかわ ひろし)さん。甚川さんは、忍者の文化を日々学び、そこで培った知恵を現代に生かすためのプログラムを展開している。檜原の歴史や日本の文化にも精通しており、今回も忍者の装束をまとってガイドしてくれた。

戦国時代からさほど変わらないであろう周囲の岩や木々を眺めながら、忍者気分で軽快に沢を登ると、腰まで浸かる水量の場所に差し掛かった。滝は目前だ。

水に浮くスローロープのレクチャーを受け、救助のノウハウも学ぶ。

安全を確保しながら、滝壺へダイブ! 清流の冷たさを全身で感じる。

水を掻き分けて進むと、大きな岩影に「くらかけの滝」が現れた。落差7メートルの二段の滝は両側の岩を縫うように流れ、水の音が岩壁に反射して迫力を増している。この滝は滝壺に入らないと実際に見ることができないため、なんとも言えぬ特別感と達成感が味わえる。人目を気にせず、童心にかえって、水しぶきを浴びながら渓流をのぼっていく「シャワークライミング」や滝壺泳ぎを存分に楽しんだ。

五感が満たされる食の時間

フジの森内でとれたフレッシュなバジルを贅沢にのせる。

五感が満たされる食の時間

沢登りで身体を動かしたあとはおまちかねのランチタイム。季節やプログラムに応じて、流しそうめんやダッチオーブン料理、BBQ、カレーといった料理もあるが、今回は「フジの森」で不動の人気を誇る窯焼きピザをいただくことに。ピザ生地に、フレッシュなトマトやバジル、ベーコンやチーズをのせ、薪をくべた窯で焼き上げていく。

トッピングを終えた生地をピザピールに乗せて、いざ窯のなかへ。

ピザ窯の中は400〜500度近く。薪が燃えている様子を間近でみることができる。

「木にはカーボンニュートラルという性質があり、薪として燃やしても、二酸化炭素(CO2)の排出量と吸収量が相殺されます。こうしたSDGsの観点からだけでなく、なにより、薪で焼いたピザはおいしさが格別! その“おいしい”というシンプルな感動が、木や自然に目を向けるきっかけになるのではと考えています」(NPO法人フジの森 小澤一雄さん)
山の傾斜地を活かした眺めのいいウッドデッキに焼き上がったピザを運び、ビールとともにいただく。高い木々に囲まれたプライベート空間で、小鳥のさえずりを聞きながら食べるご飯は贅沢そのもの。五感が満たされ、体が喜んでいるのがわかる。日々の生活に追われていると“何もしない”ことが難しく感じることがある。そんなときにこの場所で、自然の音に耳を傾けるだけの時間を持てたらどんなにいいだろう。

爽やかな風が通り抜ける気持ちのいいウッドデッキでランチタイム。

人と自然が共生する森を歩き、歴史を学ぶ。

最小限のエネルギーで山を歩く方法を教わり、実践する。コースは1〜2キロと程よい距離。

人と自然が共生する森を歩き、歴史を学ぶ。

食事を終え、ひと息ついたあとはトレッキングへ。フジの森の裏手に位置する自然観察道は、森の入り口となっており、人と動物が共存するエリアだ。コースから外れた方向に伸びる獣道や、鹿が樹皮を食べてむき出しになっている幹などを見て、動物の存在を確かに感じながら山道を登っていく。

ふと前方に目をやると、等間隔に杉が植えられた人工林と自然そのものの天然林が、道を隔てて同じ視界に広がっている。聞けば、檜原村の約6割は人工林で、50年ほど前に木材生産を目的にスギやヒノキが植えられたのだという。人が自然に手を入れる=環境破壊というイメージを持つ人も少なくないが、実はそうとも限らない。とくに人里に隣接する里山は、燃料となる薪や炭、農具や生活用具を賄うために人が木を伐り、手入れをすることで豊かな自然と生態系が保たれていた。けれど石油やプロパンガスなどの化石燃料が大量に輸入されるようになると、薪や木炭は必要なくなり、里山に人の手が入らなくなったことでだんだんと森が荒れていった。

「昭和初期まで炭焼きの村だった檜原村も、人の手が入らなくなったことで鬱蒼とした暗い森へと姿を変えていました。そんな森の整備が始まったのが十数年前。冬でも葉が茂る常緑樹を間伐し、落葉広葉樹を増やすことで冬の森に光を取り込みました。すると昆虫がやってきて、それを餌にする鳥や動物が増えていきました。里山のトレッキングを通じて、ぜひ、人と森林とのつながりをより深く感じてほしいと願っています」(NPO法人フジの森 相澤美沙子さん)

森林との接点を持つ薪作り体験

最後は森の再生と保全を学ぶ、環境保全プログラム。今回は人工林の整備に伴いすでに伐倒された間伐材をチェンソーで玉切りし、薪の大きさに切っていく薪づくり体験を行なった。普段から薪ストーブで暖をとっていると木がいかに大切なエネルギー源であるかを身に染みて感じるが、都心に住んでいると樹木との接点は極端に少ない。直接木に触れ、自分の手で割った薪で料理をする一連の過程を見ることができるのは、森の在り方を見つめ直す貴重な体験だ。
「環境保全のプログラムはほかにも、スギやヒノキを根元からノコギリで伐り、クサビやロープを使って倒す間伐体験や、材として使われない余分な枝を一本ずつ伐って落とす枝打ち体験などもあります。こうした森の仕事に触れることで、木を身近に感じてもらえたらと思っています」(小澤一雄さん)

伐倒し枝を払った樹幹を、チェンソーで40cmの長さに玉切りしていく。緊張の一瞬。

玉切りした樹幹は窯用の薪にする。「薪を最後まで見て、斧は落とすだけ」というアドバイスをもとにトライ。薪割りはほかにも、手動式油圧薪割り機、キンドリングクラッカー(斧を使わない薪割りアイテム)などの体験もできる。

「最近では、チームビルディングに役立つとして研修の一環でアドベンチャーツーリズムを取り入れる企業も多くあります。普段からチームを引っ張る人がやっぱり困難な場面でもみんなをまとめていたり、逆に意外な人が突然リーダーシップを発揮したりと、仲間の人間性や思考をみることができます。ほかにも、森林保全に興味のある方や、自然に触れ合いたい方が一人でふらっと訪れてくることも。檜原村は都心部から2時間足らずの距離なので、心と体を解放しに気軽にお越しいただきたいです」(甚川さん)

「フジの森」では、屋根のあるスペースや室内の大広間があり、天候を問わず自然体験が楽しめる。

左/「NPO法人フジの森」理事・事務局長である相澤美沙子さん。右/同じくフジの森の理事、小澤一雄さん。

フジの森
東京都西多摩郡檜原村5990-1 【地図】
☏042-598-6928 営業時間 9:00-18:00(月曜定休)
Webサイト:http://www.fujinomori.net/index.html
クルマ:圏央道「あきる野IC」より約25㎞
電車とバス:JR五日市線「武蔵五日市」より西東京バスに乗り、「南郷」にて下車。徒歩5分。

【アドベンチャーツーリスト】
黒澤祐美(くろさわゆみ)
編集・ライター/〈yaso〉ディレクター

ウェルネス・アウトドア雑誌を中心とする編集ライターとして東京で活動したのち、2021 年長野の八ヶ岳山麓に移住。現在は森林資源の利活用に取り組むプロジェクト〈yaso(ヤソ)〉のディレクターも務める。登山、キャンプ、トレイルランニング、スノーボードと1年を通して山で過ごす。

※本内容は、「(公財)東京観光財団 アドベンチャーツーリズム推進事業助成金」を活用して実施しています。

文/黒澤 祐美 写真/石原敦志

AAJ Editorial Team

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